胎児は1億年の進化の過程を辿る?!

妊娠した新しく尊い生命は、お母さんのお腹の中で十月十日育まれてこの世に誕生してきます。
これだけでも不思議で神秘的なことなのですが、この成長段階において、1億年以上かけて生命が進化した過程を1週間でドラマティックに経験しているとすると、スゴイことだと思いませんか。
「胎児は、受胎の日から指折り数えて三〇日を過ぎてから僅か一週間で、あの一億年を費やした脊椎動物の上陸誌を夢のごとく再現する」
胎児の標本を研究された解剖学者の三木 成夫(ミキ シゲオ)先生の著書『胎児の世界』に書かれている言葉です。
先生は胎児の標本を観察され、形態的変化を研究されました。
その胎児の顔面や手などの変化をみて、次のように話されています。
受胎32日
「そこには紛れもない「鰓裂(さいれつ);エラ」の形象が鮮やかに浮かび上がっているではないか。横一文字に裂けた口につづいて右四条、左五条がそれぞれ識別される」
真一文字に裂けた口と首筋に深く刻まれたエラ孔の裂は、まさしく「魚の面影」だと話を進めてています。
受胎35日
「ここには魚からしだいに両生類カエルの面影が浮かび上がってくる」
この時期には鼻の穴や、顎が出来はじめ、手も親指と人差し指の間に、ほんの僅かなくびれが現れます。
受胎36日
「魚から両生類を経て、胎児はどうやら上陸したようです。そうです、まさに、この三十六日のそれまで魚の心臓だったものが、その中に隔壁が出来て、右と左とに分かれるのです」
ここでの顔の形態を「爬虫類の面影」だと話が進んでいきます。
この時期の生命進化の時代に起きたのが「生物の上陸」です。
この時期、心臓に隔壁が出来るということは、空気呼吸を始める準備が開始されるということです。
心臓の右から出た動脈は肺に繋がり肺循環に、左から出た動脈は全身へと体循環を行うという証拠です。
生命進化の最もドラマティックなエポックメイキング(前後で大きな違いが生じるポイント)をこの受胎から36日目で経験するのです。
妊娠5週(35日~41日)は不妊治療における「胎のう確認」の時期、ここで実はこのような形態変化が起きています。そして、妊娠6週(42日~48日)は「心拍確認」の時期であり、この確認がされればかなりの確率で妊娠まで進めることになります。
そのような意味からも「心拍確認」というのは大事だと言えますよね。
「ここで初めて、ドラマティックにつわりが起こる」
と、三木先生はこの時期に妊娠された女性が体験する症状について話をされています。
上陸のドラマは生物史上においても劇的な出来事であり、その環境に適応できるものが生き残って来たのであると考えられます。
胎児も水中仕様から陸上仕様へと変貌し、必死でその体の変化を生き抜いています。その苦闘が「つわり」となって現れるのではないかと三木先生は考えたようです。
「つわり」は妊婦さんにとっては、軽く短期間で経過する方、長期にわたり症状が辛い方もあります。しかし、この症状は、母と子を繋ぐ一つの現象とも言え、また胎児が頑張って出産のために準備をしていることを知らせるものだとも考えることができますよね。
この頃には、手において五本の指の痕跡も現れはじめているということです。
生命や人の身体は不思議なことだらけです。
受胎38日
「次は三八日。さきの二日後の相貌だが、ここではもう、毛ものの面影を見ずに済ますことはできないだろう」
「まさに狛犬の鼻面です。ここはもう哺乳類がそこはかとなく漂っています」
人の胎児32日目の顔などの形態変化をみていくと、魚から始まったものが、38日目には、両生類、爬虫類を経て哺乳類に「進化」していき、上陸という進化のクライマックスまでまたいで変貌していきます。解剖学者ならではの視点「形態の変化」で胎児の真実の一端がみえてきます。
最後に
「さてこれで三十二日から三十八日までの胎児の顔をみてきました。そこには古代デポン紀の魚の時代から、中生代初頭の獣形爬虫類の時代にいたる一億年を越す ”幻の上陸劇” の再現が見られるのです。一億二千万年がそこでは一週間で経過しているわけです」
と、まとめられています。
胎児が生命進化の過程を体現することは何となく知っていましたが、形態の研究から、1週間のうちに約一億二千年かけてきた進化の過程を体現しているということを初めて知りました。感動し、感激したので、ここに書かせていただきました。
本当に人って、不思議で、神秘的で、このような形態の変化だけみても、一人一人が価値ある存在なのだと身に沁みて感じます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。